グラバーの息子
グラバーの息子
敵性外国人になった倉場富三郎
中野和久
父トーマス・グラバーからトミーの愛称で呼ばれて
いた倉場富三郎は、少年時代を長崎と東京で過ごし、
数年間のアメリカ留学を経て21歳のとき長崎に帰っ
てきた。
大学では父が望む経営学ではなく生物学を
専攻したものの、学位を取らず中退しての帰国だっ
た。当時はアメリカも日本も、日英のハーフである
富三郎を快く受け入れてくれる時代ではなかった。
押し出しの強い父とは違い、温厚で生真面目で優し
い心を持つ彼は、世間の偏見を跳ね飛ばすことが出
来なかったのだ。
しかし、父のいる東京ではなく生まれ育った長崎での
独立を希望した富三郎はその後、一念発起し経済人とし
て大活躍していくことになる。
彼は汽船会社を立ち上げ、日本初のトロール漁法を導
入して水産県長崎の基礎を作った。また語学力を活か
し
「内外
役割を果た
彼の業績のうち最も知られるものの一つは、20年の
歳月
だ。
が細密に
魚類資源を知
富三郎自身のたゆまない努力と情熱で獲得してきた
栄誉
切が無に帰
にもかかわらず、
わゆる「敵性外国人」に
ハーフという理由だけでスパイ嫌
常時、憲兵に監視されるようになってから
彼のもとから潮が引くように或いは手のひらを反す
よう
た「グラバー邸」からも引っ越さざるを得なくなっ
た。
妻に先立たれ、長崎に原爆が投下され、そして
玉音放送が
た。
彼は明治3年に生まれ昭和20年に亡くなった。
75年の富三郎の生涯は、帝国主義国家としてスタ
ートした
していく時代と重
私たちの国がどこで方向を
簡単に変質してしまうのかを知ること
近代長崎の恩人ともいえる倉場富三郎を死に向
かわせた
る歴史小説『グラ
った倉場富三郎』に、その
いる。
第一章 偉大な父
第二章 一本松邸
第三章 ベストパートナーと居留地新時代
第四章 成果と哀愁のアバディーン
第五章 それぞれの別離
第六章 ライフワーク
第七章 忍び寄る暗雲
第八章 戦争と旧居留地
第九章 長崎の運命と共に
体裁:四六判並製、250頁
ISBN978-4-88851-431-6
2025年7月24日発行